全画集1447 20m離れるとアブラハム・リンカーンの肖像に変貌する地中海を見つめるガラ(2nd)

更新日:2004/01/01

英語タイトル Gala Contemplating the Mediterranean Sea Which at 20m becomes the Portrait of Abraham Lincoln(参照画像
副題 地中海を見つめるガラ(2nd)
制作年 1976年
大きさ 縦252.2*横191.9cm
所在 個人蔵(日本)→2012年10月現在はセントピーターズバーグのダリ美術館蔵

 著作権所有者の許諾未了のため映像を表示していません。TASCHENの全画集を参照ください。上記No.は全画集に表記のナンバーです。 (参照画像はアートショップさんです。) 管理人abe

管理人の感想

 ガラの後姿がみずみずしくて、地中海に相対しているにふさわしい感じがします。また、この作品がダブルイメージの作品だと気が付いた時の驚きは新鮮な喜びでした。

リンカーンの肖像

 タイトルのとおり、遠くから見るとガラの肉体の微妙な色彩の差異が判別出来なくなり、リンカーンの顔が浮かび上がってきます。デジタル解析をした肖像画と組み合わせたダブルイメージの作品です。よく見ると、ガラの左下にデジタル解析したリンカーンの肖像が描かれており、それをダリが指差しています。「気づきたまえ」と言っているようです。 大きな肖像画の中に、それと同じ肖像画を入れ込んであり、鏡の中の鏡を見るような無限級数のようです。
 このデジタル解析はアメリカのサイバネティクス学者レオン・D・ハーモンのものです。

制作中のダリとガラ

ニューヨークのセント・レジス・ホテルの1612号室をアトリエにして、「地中海を見つめるガラ」を描いている様子を写した写真があります。ダリはリンカーンの肖像を手に持って、手前にはガラが腰をおろして雑誌のようなものを読んでいます。(ガラの真上から撮影した写真なので判りにくいかもしれません。)
 この写真は1975年12月のもので、講談社「ダリ全集Ⅲ」などに掲載されています。ダリはこの時71歳ですが、このような緻密で卓越した作品を描くことができるのは、さすがです。作品を見ていて、若々しさは感じこそすれ、老いをまったく感じさせません。これもガラの力なのでしょうか?

キリストの登場

 この絵の解説等では、リンカーンの肖像とのダブルイメージのみが語られがちですが、この絵にはキリストが登場しています。雲の中から浮かび出るようにキリストが描かれています。このキリストは「十字架の聖ヨハネのキリスト」(全画集No.1003)に描かれているものと同じです。そして、キリストの頭部がリンカーンの額のハイライトになっています。
 また、窓の形状は十字架の形になっていて、その中央にガラが位置しています。

元になる絵

 この「地中海を見つめるガラ」の原形と言うべき作品があります。「窓辺の少女」(全画集No.200)です。この絵は50年も前に描かれていて、ダリの妹のアナ・マリアがモデルです。精神的にも、50年前のアナ・マリアがガラに置き換わっていると言えるのではないでしょうか?
 また、この他に、後ろ向きの女性が窓から地中海を見つめる構図の絵には「自らの純潔の角に犯される若い処女」(油絵1075等)があります。

ダリの国が見たい

 大日本図書から「ダリの国が見たい」という本が出版されています。筆者の森枝雄司さんは、ダリを特集したテレビ番組でこの「地中海を見つめるガラ」を見ました。そこで強い衝撃を受け、ダリの生まれた国へ行ってみたいと思い立ち、スペインへ旅立つことになりました。その紀行文を本にしたものがこの本です。この本については「ダリの本棚」を参照してください。

作品の所在

「地中海を見つめるガラ」は1987年の夏に、日本人が購入しています。230万ドルで買ったと報道されましたが、その時は誰が買ったのかは公表されませんでした。マーチン・ローレンス社のブラインダー氏がダリから直接購入し、セントピーターズバーグのダリ美術館に貸し出していたものでした。(以上、1987年8月2日の毎日新聞より)
 ある美術館で展示され、数年後の美術雑誌に購入された方の記事が掲載されましたが、その後にこの作品に関する情報を聞いたことはありません。誰か、所在のわかる方がいれば、「ダリの掲示板」にてお知らせください。
 私がセントピーターズバーグのダリ美術館を訪れたのは、その年(1987年)の8月末でしたので、この作品を見ることは出来ませんでした。しかしながら、この絵は2ndバージョンであり、スペイン、フィゲーラスのダリ劇場美術館には1stバージョン(全画集No.1146)があります。私はそこで1stバージョンを見ることが出来ました。

 セントピーターズバーグのダリ美術館が建て替えられた後の2012年10月に訪問しましたところ、この作品がありました。どの様な経過で戻ったのでしょうか。間近に観るとガラが若々しいです。(2014年9月追記)